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「世間」と「甘え」 ( 一心塾だより 第45号)

 『同調圧力 ー日本社会はなぜ息苦しいのかー』(鴻上尚史佐藤直樹著)を読み終わって頭が忙しくなっているので、この場を借りて整理してみたくなりました。この本で徹底的に語られる「世間」というものに、「甘え」の問題が絡んでいると思えるからです。

 対談を行っている鴻上尚史(こうかみしょうじ)さんは、著作や演劇で「世間」のからくりや弊害を繰り返し訴え、佐藤直樹さんは「日本世間学会」の代表としてこの問題を追求しています。お二人はコロナ自粛の現在の日本に「世間」の問題が噴出していると危機感を覚え、この本を緊急出版されたようです。本のタイトルの「同調圧力」は世間の弊害を語る上でのキーワードです。

 ゴールデンウイーク前に政府は緊急事態宣言とともに国民に自粛を求めました。すると罰則もないのに、日本人は非常に従順にこれに従いました。諸外国ではありえないことのようです。罰則はなくても「世間」が日本人を縛るのです。世間の同調圧力は法律を上回る日本人の行動原理といえます。日本は犯罪が非常に少ないけど、10代の自殺が非常に多いということも同調圧力が強く影響している、と二人は指摘しています。

 同調圧力とは、「空気」であって言葉ではありません。ここが問題です。言語化されてしまえば反発もできますが、空気に抗うのは容易ではありません。鈍感であればよいだけのことですが、空気に鈍感であったがゆえにいじめや仲間はずれにされてしまうこともあります。それが怖くて敏感でいると萎縮せざるを得なくなってしまいます。また敏感に空気や相手の意図を読み取って、先回りして行動するのが日本流のおもてなしであり、忖度です。

 言われなくても空気や意図を読み取る能力が日本人は抜きん出ているので、とても甘えが満たされやすいのですが、逆に、明確に要求することが控えられ、品のないことのように感じられます。明確に要求しない習慣が、甘えたい気持ちの言語化を鈍らせ、甘え下手な人がストレスを抱えていくのです。私が『甘えとストレス』( Book Trip)で書いたのはその辺のことです。

 佐藤さんは世間と一体化するのではなくて、個人として社会とつながることを説きます。しかしそれはなかなか難しいので、鴻上さんは、家族や職場など一つだけの世間にいると息苦しくなるから、いろんな世間にゆるく関わることを勧めています。

 空気を読み取る能力に長けた日本人は、世間と同化しやすいことは確かでしょう。その息苦しさはフェルトセンスとして感じられるはずです。そこをフォーカシングして、言語化に成功すれば、世間を居心地の良い空間にできますし、苦しんでいる人を助けることもできるでしょう。同調圧力を掛け続けている人に対して、ピシャリと効果的な言葉がけができるようにもなりたいものです。せっかく持って生まれた日本人的能力を長所として活かしたいものです。

 

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