傾聴に必要な二つの力(一心塾だより 第24号)
「東ロボくん」をご存知でしょうか。 東大合格を目指すロボットなのですが、 このプロジェクトを率いた新井紀子先生の目的は、 AIにできなくて人間にできることは何か、 を明らかにすることでした。それが「意味を理解すること」 つまり「読解力」だと言うのです(『AI vs 教科書が読めない子どもたち』参照)。 そして読解力を必要といない職業は、 将来的にAIに仕事を奪われていくことになるだろうと新井先生は 警告しています。
新井先生はこのプロジェクトに並行して小中高生の読解力調査を大 規模に行ったところ、 約3割の子どもが教科書の内容が理解できていないことが判明しま した。
読書好きだから読解力が高いというわけではないようです。 何が読解力向上に影響しているかはまだわかっていないようですが 、 少し難しい文章でも精読して理解する好奇心や忍耐力と関係してい るのかもしれません。また物事をイメージ的に捉えたり、 シミュレーションする想像力も関係しているように思います。
それは傾聴というAIに代替できそうもない営みにも通じます。 相手の話を聴きながら相手の心を理解していくのですから、 読解力が必要です。他者理解以前に、 自己理解にもそれは必要になると思います。
傾聴で必要なもう一つの力は、自己を捨てる力です。 自分の意見や価値観、スタイルにこだわりを持っていると、 傾聴しているはずが、途中から相手を説得したり、 相手に苦手意識や嫌悪感を持ってしまいます。
自己を捨てる力が向上すると、慈悲心につながっていきます。 マインドフルネスとセルフフォーカシングの練習に加えて、 利他的な行為を意識していくことが重要です。また、リスナー・ フォーカサー訓練は自己を捨てる力を直接的に鍛える筋力トレーニ ングのような意味があると思います。
読解力を向上させるには、 ちょっと敬遠していたむずかし目の本を、 時間を掛けてでもきちんと理解しながら読むことでしょうか。 できればフォーカシング関連の本も10冊以上は読んだほうが良い と思います。
(一心塾だより第24号)